オキシトシン物語

ぼくの名前は沖仁志。地元じゃ少しだけ名前の通った中小企業に勤める30歳。

写真はイメージです。

妻は1歳年下。合コンで知り合って2年で結婚。ひとり息子3歳にかかりっきりで最近は夫婦らしいことも無くなってきたかな。

会社では5人チームのリーダーとして営業の仕事を頑張ってます。
出世は早い方ではないけれど、そこそこ優秀なリーダーだと自負してます。

写真はイメージです。

「リーダー、最近なんかやる気出ないんっすよね」

部下のひとりが口にすると、次々とやる気のない部下たちの声。

「そうそう、最近仕事が楽しくないっていうか、つまんないんですよね。」

「リーダーはどうなんですか?」

おいおい、一応リーダーだぞ。

ぼくだって仕事なんて楽しくない。昨日も部下のミスでお客様に怒られてきたばっかりだ。

それでも立場的に泣き言なんて言ってられないわけで。

「何言ってんだ、仕事なんだからしっかりやらないと」

本音で言えばぼくだって思うことはたくさんある。

部下たちが面白くないというのも十分わかるし、ぼくだって同じ気持ちだ。

写真はイメージです。

「おいおい、何サボってんだ。早く営業行かんか!」

課長が入ってきて、空気が変わる。そそくさと出かけて行く部下たち。
出遅れたぼくが課長に捕まって、恒例のお説教タイムの始まりだ。

「大体お前がしっかりとリーダーシップを取らないから部下たちが動かないんだぞ」

「いい加減会社に貢献してると言えるぐらいの売上は出してこい」

「今月のノルマ大丈夫なのか?今月達成しなかったらボーナスに響くぞ」

はぁ、いつだってそう。悪いのはぼく。
部下が仕事しないのも売り上げ上がらないのも、全部ぼくのせい。
課長はいいよな、小言言って回ってれば仕事してるって言えるんだから。

写真はイメージです。

同期の新庄くんはいつも元気。

本当に能天気なのか、ストレスフリーな感じで正直ちょっと羨ましい。

同じ営業部でも成績トップのリーダーとして、次期課長の声も掛かっているらしい。

「新庄くんはいつも元気で羨ましいなぁ、成績も優秀だし」

「そんなことないよ、昨日もクライアント怒らせちゃって大変だったんだから」

「それでも今月もノルマ楽々クリアでしょ?すごいよなぁ。俺なんて・・・」

「そういえば最近顔色よくないな、ストレス貯まっちゃってんじゃないの?」

「そうだなぁ、最近妻ともご無沙汰だし。ストレスかもなぁ」

「ストレス溜まるといい仕事なんてできないぞ。ストレス解消しなきゃ!」

「そうだなぁ、新庄くんはストレスなさそうで羨ましいよ」

「違うよ、ぼくだってストレスは溜まるさ。でもストレス解消してるから」

「いいなぁ、ぼくもいいストレス解消見つけなきゃな」

「そうだ!沖くんも行ってくるといいよ!この前行ったメンズエステ!」

「何それ、メンズエステって行ったことないけど」

「大丈夫、健全なお店だからww ストレス解消にもってこいのお店があるんだ」

ぼくは新庄くんにはストレスなんてないと思ってた。仕事も順調そうだし、部下からも慕われてる。上司の評価だってぼくとは比べ物にならない。

そんな新庄くんが教えてくれたメンズエステ「Aromani」に行ってみよう。

新庄くんが教えてくれたお店は岐阜市茜部にあった。
建物は古そうだけど、エントランスから掃除が行き届いていて清潔感はある。

到着したら駐車場から連絡くださいとお店の人に言われた通り、電話をかけた。

「お電話ありがとうございます、Aromaniです」

「予約していた沖です。今駐車場に到着しました」

「ありがとうございます、ではお部屋準備できておりますので、3階にお越しくださいませ」

案内された部屋に到着して、呼び鈴を押すとすぐにドアが開いた。

「お帰りなさい」

元気にお出迎えしてくれたのは、写真で選んだまひろさん。

正直ちょっと驚いた。こういうお店って写真とは全然別人みたいな人が出てくるもんだと思ってた。

「かわいいじゃん」思わず声が漏れた。

まひろさんは気づいたのか気づかないのか、全くそこには触れずに奥のソファーに案内される。

「甘えんぼコースの120分でよろしかったですか?」

この甘えんぼコースっていうのが新庄くんのオススメだった。

なんでも「オキシトシン」という脳内ホルモンの分泌にこだわったコースらしい。

これがストレス解消にすごく良かったとのことだ。

「はい、よろしくお願いします」

料金を支払うと部屋に案内された。
着替えてシャワーを浴びに行く。シャワールームは普通だけど、ちゃんと掃除されてて清潔感は十分だ。

シャワーを浴びて出てくると、まひろさんが待っててくれた。

もう一度部屋に戻る。

「じゃあ仰向けで寝てください」

まひろさんに促されるまま仰向けでマットに寝転がる。

「ちょっと失礼しますね」

そういうとまひろさんはぼくの頭を太ももに乗せて、ちょうど膝枕の体勢にしてくれた。

そう言えばどれぐらいぶりだろう。妻も結婚するまえはよく膝枕してくれたっけ。

なんだか落ち着く。これが甘えんぼか。

温かいアイマスクをつけると、体のあちこちをストレッチしてくれる。
意外と硬くなってるな、運動不足なのかもしれない。

視界を奪われているからこそ、妙にまひろさんが近く感じる。

目の前にまひろさんがいる気がする。なんだかドキドキするもんだなぁ。

膝枕が心地よく、その体勢で頭のツボを押してくれる。

本当に気持ちよくて、ぼくはウトウトしてしまった。

抱きしめられるように体勢を変えられたりしながら、眠りに落ちていきそうな意識の中で、まひろさんの存在がとても心地よかった。

温かいアイマスクを外すと、薄暗い照明なのになんだか少し眩しく感じる。

目の周りの疲れが溜まっていたのか、まひろさんの指が心地よく感じる。

すっかりリラックスしたところで、うち伏せになり温かいオイルでのエステが始まった。

足の裏から丁寧にオイルを塗りながら、絶妙な力加減でリンパを流してくれる。

溜まった疲労物質が流れて行くような感じが気持ちいい。

「結構お疲れですね」

まひろさんが優しく話しかけてくれる。なんだかその声までも愛しく感じてしまう。

足先から始まって、腰や肩などの疲れもすっかり楽になってきた。

仰向けになったときは少しばかり恥ずかしかったけど、それさえも気持ちよく感じる。

心地よかった時間もあっという間。どうやら120分コースもそろそろ終わりらしい。

ふき取りではなくシャワーを選んで、帰りの身支度。

シャワーで流した後の肌も、なんだか少しすべすべになった気がする。

後でまひろさんに聞いたのだが、なんでも良いオイルを使っているらしい。

身支度が整って、最後にお茶を出してくれた。

なんだかこのまま帰るのが少し残念な気持ちにすらなってしまうほど、本当に心地よい時間を過ごすことができた。

「またお待ちしてますね」

まひろさんの声に後ろ髪引かれながら、お店を後にした。

「オキシトシン」という脳内ホルモンの働きなのかどうかはわからないけど、とてもストレスが解消された気分だ。

普段甘えるなんて誰もさせてくれない、そうぼくが求めていたのはこれだったのかもしれない。

誰かに思い切り甘えてみる、これは本当にストレスが消えて行く感じがして心地よかった。

写真はイメージです。

「おはよう!」

なんだか会社に出社した瞬間から、いつもと違った風景に見える。

昨日と何も変わっていない会社の風景のはずなのに。

「あ、リーダーおはようございます!なんか今日は爽やかですね。何かいいことあったんですか?」

いつも愚痴しか言わなかった部下が、朝から気持ちのいい声をかけてくれる。

「あぁ、ちょっと、ね」

なんとも歯切れの悪い返答しか出てこなかったが、満更でもない。

誰かに気持ちのいい言葉をかけられるのは、心地の良いものだ。

ストレスが溜まってた、だから自分に余裕がなかったのかもしれない。

そうだ、今日からはぼく自身が気持ちのいい声をかけていこう。

ぼくは少しだけ前向きになった気がする。

きっとまひろさんにストレス解消してもらったおかげかな、とまひろさんの笑顔を思い出しながら、ふと笑顔が込み上げた。

あれからぼくはストレスが溜まったと感じると、甘えんぼコースでリフレッシュするようになった。

もちろん、いつもまひろさんご指名で。

ストレスが無くなった訳じゃない、でもストレスとの付き合い方が変わった。

むしろストレスが溜まって、まひろさんに会えることを楽しみにしているぼくがいた。

少しだけリーダーとして成長したような気がする。

写真はイメージです。

おかげでぼくにも次期課長の声がかかるようになった。

来月、ぼくと妻とひとり息子は引っ越し予定。

少し会社からは遠くなるけど、念願だったマイホームを手に入れた。

妻も喜んでくれて、家庭円満。

まひろさんのことは内緒だけど、浮気じゃないから許してくれるかな、なんて思ってます。

ストレスとの付き合い方、ぼくは少しだけ上手になったように思います。